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vehicle design車両設計 編

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02Project 思い描く理想を現実のものとするために

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H・F
商品開発部 商品設計一課

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M・S
商品開発部 商品設計一課

CHAPTER01

一大プロジェクトに参画する重圧

スカイマスターSH15Cの設計を担当したH・Fは、入社してからさまざまな車両の設計に携わってきた。SH15Bでは何度かマイナーチェンジをしているが、その際に設計として関わっている。SH15Bの販売から、じつに14年あまりが経っていた。より安全度の高いもの、作業の効率化を求める声は高まっており、後継機を作ることは待ったなしの状態だった。

スカイマスターシリーズの15mクラスというのは、アイチコーポレーションが発展していく中で、お客さまと一緒に形やスペックを決めてきた特別な車両だ。アイチコーポレーションを代表する車として、次世代の後継機を作るプロジェクトには背筋が伸びる思いだった。

H・Fは最初のPL会議に呼ばれた時、「大きな開発になる。これは大変だ」と感じた。重圧を強く感じたものの、設計を長く共にしてきた開発総責任者(LPL)のT・Fの顔があり、プレッシャーを感じながらも同時に安心感もあった。

まずは、営業企画がまとめてくれた膨大なデータや資料から、「何を作るか」を決めていかなければならない。設計者として非常に頭を悩ませる問題が、「従来の形を変えられない」といった問題だ。アイチコーポレーションが今までの歴史において、お客さまとともに作ってきた多岐にわたる装備(オプション含む)を網羅しなければならない。後継機だからといって、SH15Bの形と全く異なる奇抜なデザインにしてしまえば、今までスカイマスターシリーズを使い続けてくれたお客さまが戸惑ってしまう。SH15Cを見た時に、前の機種との違いをあまり感じさせないのは、「使用する人が使いやすいように」との配慮があってのことだった。

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CHAPTER02

作業者の目線で安全性をデザインする

スカイマスターSH15Bは、高所作業車として非常に洗練されたデザインであった。無駄がなく、業界的にも非常に評価が高い、いわゆる「完成されたデザイン」のように思われていた。しかし、SH15Bそのままのデザインにしておけば良いというわけではない。同時に大きく変更したい部分があっても、それを叶えるためには途方もない開発年数が掛かってしまい現実的ではない。設計を始める前のコンセプトを定める要件定義は、長い時間をかけて練られたという。

SH15Bをベースにしながら、さらに安全性を高めていく。それはコンセプト決めにおいて、欠かせないポイントだった。とくに、昇降ルートの確保は安全性という点で最優先に位置付けられる。バケット(作業者が乗り込み、高所で作業するためのスペース)に行くまでの昇降ルートにおいて、車両からの転落事故を防止するための改善策を盛り込んだ。高所作業車というと、バケットでの事故対策がメインになるかと思いきや、バケットに辿り着くまでの転落事故も非常に多く、昇降ルートは作業者の安全性を守るために欠かせない要素なのだという。

レイアウトや基準の変更を行い、なるべくまっすぐ通れる道を確保したり、現行機を使ってシミュレーションを重ねた。試作においては、グリップ形状の感覚を人間工学の評価基準に則り、幅や間隔、ステップが確保されているかどうかを厳しく定めた。

また、昇降ルート途中でグリスがつかないようにも設計されている。前の車両はジャッキのグリスが剥き出しのため、触れることでグリスが衣服に付着してしまう。そのような細かい部分でさえも「安全性に関わる」として設計に盛り込んでいるのは、アイチコーポレーションならではの「作業者の目線で安全性をデザインする」という歴史があってこそなのだ。

こうして、H・Fの設計チームは細部に至るまで一つずつ仕様を検討、設計図に起こすという作業に明け暮れていった。

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CHAPTER03

「お客さまの声を聞く」
原点にして大切な設計精神

LPLのT・Fは、設計者と共にお客さまのところへ訪問し、要望や意見を聞いて回った。協議会があればその場に赴き、一人でも多くのお客さまと接触できるように努めた。それはT・F自身の「開発初期の調査では、お客さまのところへ行って情報を得なさい。そして開発が終わったら、評価をいただきなさい。作業を実際に見ることで、何が事故につながるかを知ることができる。そして直接お客さまと関わることで、こちら側の意見も聞いてもらえ、開発に活かすことができる」という考えがあっての行動だった。

事故の再発防止策のほかにも、お客さまからの要望も数多く聞いた。SH15Cの目玉である「無段階アウトリガー」は、業界全体でも実現させることが難しい装備。

そこでH・Fは「安定度」という、ブームが伸びた時に車体が安全な姿勢をとれる角度や数値の計測から始めた。 その数値をもって、制御チームがソフトに反映させていく。H・Fたち設計者は、アウトリガーを制御するソフトウェアから開発し直したのだ。制御をスムーズにするためには、演算のスピードも必要だ。CPUの進化が12年の間に加速度的に進んでいたのも開発を大きく後押しした。車両姿勢の制御方法についても知見が蓄えられ、SH15Cでようやく実現した機能が無段階アウトリガーだった。無段階であれば、作業圏内であれば自由にブームを伸縮可能で、作業者の方が車両をセットし直す手間を省ける。現場での作業効率向上に大きく貢献した機能だった。

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CHAPTER04

マルチインフォメーションディスプレイ
「次世代の人材を見据えた」
設計の醍醐味と苦しみ

T・F率いる設計チームたちは、安全性を含めた見た目やデザインにもこだわったという。「私たちアイチも業界の一員として、次世代を担う若い方々にどんどん入ってきて欲しい。だからこそ、純粋に目で見て”かっこいい”と感じていただける車両をつくることで、自分もやってみたいという憧れになるのではないかと考えた」とT・Fは語った。

そのこだわりが最も反映された機能がマルチインフォメーションディスプレイなのだという。そして、この開発においても、さまざまな壁があったとH・Fは語る。「車体の後方下部にある操作板には、ブームやアウトリガーを動かすスイッチのほかに、液晶パネルがある。このディスプレイでは、リアルタイムでの車両の姿勢状況や各種エラー表示などが表示されるようになっている。今までは熟練の作業者の方々の職人的な技能によって動かしていたブームだったが、経験の浅い若い作業者にとっては難しい。だからこそ、ディスプレイを見れば直感的に安全に操作できるようなディスプレイにしたかった」

ディスプレイは、どのようなデザインがいいのか。表示させる内容は?決めることは多岐に渡ったが、自動車のナビなどの情報を参考にしながら、デザインを完成させていったという。工業デザインとしてのトレンドも加味しつつ、時代に沿った見た目を意識し、細部を決めていった。

実はスカイマスターは、シリーズを通して装備が多いのが特徴だ。とくにSH15Cでは、多彩なオプションが加わり、設計で扱う機能は非常に膨大な数となった。時間に追われながら設計が苦しくなる場面もあったが「設計は自分のアイデアで解決できるのが面白い」とT・Fは言う。それが設計の醍醐味、やりがいだと微笑んだ。

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CHAPTER05

知恵とチームワークで「壁」を乗り越える

営業や現場から上がってくるさまざまな課題に、行き詰まりを感じることは一度や二度ではない。営業のM・Nが「お客さまの要望がある」として新しい機能をつけたいと思っても、コストの面で見合わなかったり、製造現場からの難色にあったりした。決めなければならない課題、越えなければならない壁がいくつも立ち塞がっているように感じていたのだ。

PL会議は進んだり、戻ったりをしながら議論は深まっていった。時に議論が停滞し右にも左にも進めない壁に直面しながら、その中から良いアイデアを出していかなければならない。諦めずに知恵を使い、いくつもの窮地をみんなで乗り越えてきたという。

「みんなが同じ方向を向いたからこそ、このプロジェクトは完遂できた」とH・Fは言う。各部署が集まるからこそ情報の伝達や共有は滞りなく行える。時に意見がぶつかりあってプロジェクトが停滞することがあっても、解決策も全員の知恵を集めて考えられる。社内のどこかをひいきにするのではなく、社内全体となって一つの製品を作り出そうと情熱を注ぎ続けられたからこそ、スカイマスターSH15Cは生まれたのだ。

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CHAPTER06

若手への期待
チャンスを掴んだのは前向きな心

設計部の若手であるM・Sは、他の若手とともにSH15Cの一部の設計を任された。開発当時入社三年目であったM・Sは、プロジェクト参画前には海外の電気設備関係車両の特別仕様の設計を担当していた。プロジェクト発足時にはすでに15mクラスの商品設計に携わった経験があったため、若手ながらM・Sが抜擢されたのだった。アイチコーポレーションの方針として、若手にも活躍の場は与えられる。また、M・S本人の仕事に対する誠実さと、良い案が出るまで挑戦し続ける粘り強さも抜擢の理由だった。

M・Sは、まだ経験も知識も浅い中でのビックプロジェクトへの参画に、最初は不安を覚えたというが「お客さまにとって、より良い製品になるような”ものづくり”がしたい。この開発を通して成長する良いチャンスだ」と前向きに捉え、仕事に邁進した。

先輩や周りの力も借りながら設計書を出したところ、上司からある指示が出された。試作の段階でリア周りのカバーの形状を決めたが「外から見える状態のボルトを隠してほしい」のだという。一見すると見た目に関する指示に思えて、とても重大には思えない細かな依頼だと感じたが、実はこのボルト一本でさえ、飛び出しているか否かで作業者の危険性を大きく下げる仕様変更なのだという。見た目だけではなく、その先の意味を汲み取り、お客さまの立場になって考えること。M・Sが設計者としてディテールに大きな意味を見出した瞬間だった。

「設計ってロマンなんだよね」とT・Fは笑顔を見せた。T・Fの求める「憧れを引き寄せるかっこよさ」の中にも、作業車の安全性と利便性が極限まで考えられている。自由に発想できるからこそ、設計という工程は「どのような想いで設計するか」という思想も重要なのだ。そして、そんな想いを持った若手設計者の活躍が今後のアイチには必要だという。

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CHAPTER07

次世代につなぐ意志
スカイマスターの完成品を見た時の感動

M・Sは、今回のプロジェクトを振り返って話した。「スカイマスターは、お客さまにとってなくてはならない存在なんです。今回のプロジェクトは、自分自身の大きな成長につながった。機種開発を計画の段階からレビューまで携われる貴重な体験によって、自分に自信がつきました。開発のイメージもついたことで、今後も活躍できるような人材になっていきたいと思います」

H・Fは、完成したSH15Cに対して「街中でスカイマスターSH15Cを見かけた時、『本当に作ってよかった』と思いました」と嬉しそうに語った。その感想に、M・Sもうなずく。その目には、戦後の日本復興を支え、現在まで人々の暮らしと豊かな生活を支え続けてきた高所作業車の歴史の新たな1ページを見据えていた。

スカイマスターは、アイチコーポレーションにとってどのような車両になっていってほしいかとの問いに、H・Fは今後の展望を話してくれた。

「スカイマスターは、今後も進化し続けていく車両です。時代やニーズに合わせ、姿や形を変え続けていくでしょう。いつでもそこにある、空気のような存在。現場にとって、なくてはならない車両として、私たちはスカイマスターSH15Cがたくさんのお客さまに愛される車両になってくれることを願っています」

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